テキレボ準備号・新刊ダイジェスト②

こんにちは。
テキレボのお買い物代行サービス締め切り前になんとかこの第二回新刊ダイジェストを上げようと思っていましたが敗北しました。えーん。
今回紹介しようと思っていた『眩暈の紫』はカクヨムにて全文公開→しているのでまあもうサボっても?いいのでは?と甘えていました。えーん。

それでは前置きですが、Text-Revolutions4は10月8日(土)、浅草は都産貿センター台東館で開催される文芸同人イベントです。
二次創作もありなので、今回は刀剣乱舞フェアも開催されますよー。当日は占いや朗読、ポストカードラリーや即興小説の企画もイベント内で開催されて、大層賑やかになるはずです。「大人の文化祭」ですね。


というわけで、前回『赤錆びと渇きの。』に続いて、二種目の新刊『眩暈の紫』の本文抜粋&紹介になります。




双子の一方は若く、一方は老いていた。
赤い雨が止み、奇病が蔓延るホーン。数年ぶりに師のもとへと帰ったヴァイオレットは、幾度も繰り返す少女の生のなかで、いつも死だけを見つめていた。
師弟のきずなと双子の情、街の愛し児たるヴァイオレットは、誰を愛し、誰とともにあることを選ぶのだろう。
欲望×日常を描きだす、仄暗い一幕。

B6判60頁、400円

ででーん。
両更クラフトに、紫色の帯です。タイトルが『眩暈の紫』(げんうんのむらさき)だからです。

こちら、前回ブログで紹介しました『赤錆びと渇きの。』と舞台を同じくしております。淀んだ街・ホーン、『赤錆びと渇きの。』時点で降っていた赤い雨が止み、そして…というお話。
といっても、繋がっているのは世界くらいなので、お話しはそれぞれ単体でお楽しみいただけます。
※ただ、『眩暈の紫』主人公のヴァイオレット、『赤錆びと渇きの。』主人公のマリアは両作品ともに登場しております。よかったら二冊手に取って探してみてね(ダイマ)

てなわけで早速ダイジェストしますー。


「あんたが死ねば、パンをひとりで食べられるのに」
 ヴェネットはヴァイオレットを呪っていた。だがヴァイオレットはそうではなかった。ヴェネットは罵詈を尽くそうとも、ヴァイオレットから離れなかったからだ。捨て置いたりしなかった。彼女は決してヴァイオレットをそばから離そうとしなかった。同い年の双子のはずなのに、まるでヴェネットは姉だった。ヴァイオレットに指図し、先に立ち、彼女を所有していたのはヴェネットだった。
 いつも餓えていた。いつも渇いていた。いつも疲れると思うことさえなく疲れ果てていた。
 好きでもないのに一緒にいた。

 ――ヴェネット、あたしの半身。あたしのねえさん。
《半身》より


「金よ」
「……見苦しい恰好で来ないで。鼻が曲がりそう」
「綺麗にしていたら歓迎会でもしてくれるわけ?」
「受け取ったわ。帰って」
「しばらく来られない」
「あんたみたいに子どもじゃないの。あたしはひとりで死ぬ方がいい」
「あたしは嫌だわ」
「だから、あたしはあんたとは違うと言っているでしょう」
「ヴェネット」
「帰って、ヴァイオレット」
「愛してるわ」
 そう告げて、ヴァイオレットは部屋を出た。薄い扉をやさしく閉じれば、ややしてなにかが壁にぶつかり砕ける音、それから貨幣が床に散らばる音があった。ヴェネットの低い罵りは呪いじみており、ヴァイオレットはそれに耳を傾けていた。
《ヴァイオレットという女》より


 マリアンネを上向かせ、オミはいたずらにちいさな彼女にくちづけた。
 ヴァイオレットはそれをぼうっと見つめている。視線を感じながら、くちづけを深くしていく。彼女の視線は感じるが、それは動物を眺めるような、ひどく他人事の、空しく軽いものだった。オミの期待する、情熱や憎悪といったものは、すこしも感じることは出来ない。与えてはくれない。
 背筋が震え、怒りを掻きたてられたのはオミのほうだった。マリアンネの頭を強く抑えれば、彼女があまくちいさな声を漏らす。吐息さえ奪い尽くすために、オミは決して彼女を離さなかった。そして目は、ヴァイオレットを捉える。
 笑っていた。愉快で愉快でたまらないとでもいう風に、ヴァイオレットは笑いをこらえていた。紫色の眸を三日月形にゆがめて、くちびるは波打っていた。
 マリアンネの口腔を蹂躙していた舌を引く。すると追いかけるように、幼い赤が追いかけてくるのがわかる。
「ぎっ……!」
 思い切り噛んだ。
 じわりと血の味が、オミとマリアンネのあいだで共有される。苦く生臭い血が、唾液と混じってぼとりと落ち、白いシーツを汚した。マリアンネがもがき、オミの胸を叩く。オミは彼女の手をゆるし、顎に力を込めた。冷汗と、痛みと、マリアンネの呻き声。
「赤錆びの雨、止むわ」
 シーツの赤い汚れを見て、ヴァイオレットは愛おしむようにそう言った。
 恐ろしいほどの失望に襲われて、オミはマリアンネを突き放し、部屋を出るしかなかった。
《死を視る紫》より


「ヴェネット、あたしたち双子よね」
「少なくとも生まれてから数年はそうだったでしょうね」
「いまもよ」
「そうかもね」
 ヴェネットは言葉通り、子どもを見るようなまなざしをヴァイオレットにくれていた。老成した彼女だが、母性などというものは欠片もない。老いた女の乾いた目だった。彼女の肩に手を伸ばすと、それとなく避けられてしまう。触れないで、触れないで、触れないで。
 憐れんでいるのか、憐れまれているのか。
 ヴェネットとヴァイオレットはもう、双子ではないのか。
「ねえさぁん……」
 顔をゆがめてみたところで、涙の一滴も落ちない。
 ヴァイオレットの声は媚びてあまえた声だった。不透明で、黒く絡みつく縄目文様よりあるいは、禍々しい類の。
「帰りなさい、ヴァイオレット」
 ヴェネットは、いちばんやさしい声でそう言った。
《ホーンの魔術師選定》より


「なつかしいね、ヴァイオレット。覚えているかな。なかなか薬をやめられないおまえに、僕はこれで教えたね」
「それであんたは鞭をやめられなくなったもの、覚えてるに決まってるわ」
 そうか、と言いながら、肩慣らしに振り下ろす。
 ひゅっと風を切り肉をとらえる音、ヴァイオレットが鎖骨のあたりを押さえて転げた。
 ウウ、と獣の唸りのようなものが、色を失っていたくちびるのすきまから漏れ出る。
 背筋を駆け上がってゆく冷たいものの正体を、オミは熟知していた。ヴァイオレットの指摘の通りだ。オミは彼女を打つことが、とても好きだ。それは快楽だった。悦と笑えば彼女も嗤う。
「ほら」
 そう言って誘う、ヴァイオレットは服を脱ぎ捨てた。露わになった白い裸身の、どこにでも傷をつけていい。どんな痕を刻んでもいい。オミは彼女に許されている。
「おまえは僕のものだ」
 続けざまに打てば、低い声で呻く。押し殺された苦痛のぶんだけ、つぎはどんな声をあげるだろうと、オミは期待せずにはおられないのだ。
どれだけ強く振るえば? どこを打てば? どうすれば彼女は悦ぶだろう?
 苦と楽の淡いを行き来しながら、肉を触れ合わないまま、オミとヴァイオレットは確かに交わっている。愛おしい子を打つことが、いったいどれほどつらいのか、ヴァイオレットにはわからないだろう。彼女はオミを愛していないのだから。だが、ふたりはいま同じところにある。同じ舞台のうえで、絡みあっていた。
《罰と不感症》より


と、いう感じでしょうか。
実はこれらのあいだとかもっとラスト間近とかに気に入っているシーンが集中しているんですけれど、生憎ネタバレというか大事なとこなので自重してみました。
いま抜粋したなかだと最後の鞭びしばしシーンが好きです。

そう。

『眩暈の紫』は双子が愛憎し、師弟が愛憎し、不死を目指したり生きてくことを考えたり鞭で叩いたりちっちゃいこをいじめたりするファンタジー小説です。
『赤錆びと渇きの。』とくらべるとどうしようもない成分は薄目ですが、かわりに激情屋さんが多いので若干の暴力描写があります。少しでも苦手なかたは自衛をよろしくお願いします。

また、『赤錆びと渇きの。』と同様、『眩暈の紫』でも悪女小説フェアに参加します。
誰が悪女なのか考えてみてくださいね~。
(わたしは赤錆びのオルガがいちばんどうかと思っているのですが…)

気になるところはあったでしょうか?

愛憎劇ではあるのですが、個人的には終わり方がとても爽やかな本なので、『赤錆びと渇きの。』よりも読みやすいと思います。なんだかんだとこの手のファンタジーを頒布するのははじめてなので、こういったら変ですが、入門編という感じでしょうか?





実はこの『眩暈の紫』ですが、小説投稿サイトカクヨムで全文公開しております。


これが製本版とまったく同じ内容ですので、特に本の形がいいというわけでないかたはこちらからでもぜひ読んでくださると嬉しいです。
(というか全文掲載しているので製本版はあんまり刷ってない)

当日企画についてもご紹介する予定ですが疲れてきたので③に持ち越すことにします……。


ヲンブルペコネ一同

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